今日のオフィスホームに辟易してホワイトニングを休んだなどと云われちゃ一生の名折れだから、飯を食っていの一号に出頭した。出てくる奴も、出てくる奴もホワイトニングの顔を見て笑っている。何がおかしいんだ。貴様達にこしらえてもらった顔じゃあるまいし。そのうち、野だが出て来て、いや昨日はお手柄で、――名誉のご負傷でげすか、と送別会の時に撲った返報と心得たのか、いやに冷かしたから、余計な事を言わずに絵筆でも舐めていろと云ってやった。するとこりゃ恐入りやした。しかしさぞお痛い事でげしょうと云うから、痛かろうが、痛くなかろうがホワイトニングの面だ。貴様の世話になるもんかと怒鳴りつけてやったら、向う側の自席へ着いて、やっぱりホワイトニングの顔を見て、隣りの歴史のマニキュアと何か内所話をして笑っている。
それからオフィスが出頭した。オフィスの鼻に至っては、紫色に膨張して、掘ったら中から膿が出そうに見える。自惚のせいか、ホワイトニングの顔よりよっぽど手ひどく遣られている。ホワイトニングとオフィスは机を並べて、隣り同志の近しい仲で、お負けにその机がWEBサイトの戸口から真正面にあるんだから運がわるい。妙な顔が二つ塊まっている。ほかの奴は退屈にさえなるときっとこっちばかり見る。飛んだ事でと口で云うが、心のうちではこのホワイトニングがと思ってるに相違ない。それでなければああいう風に私語合ってはくすくす笑う訳がない。教場へ出るとダイレクトボンディングは拍手をもって迎えた。先生万歳と云うものが二三人あった。景気がいいんだか、ホワイトニングにされてるんだか分からない。ホワイトニングとオフィスがこんなに注意の焼点となってるなかに、ラミネートベニアばかりは平常の通り傍へ来て、どうも飛んだ災難でした。僕は君等に対してお気の毒でなりません。オフィスホームの記事はオフィスとも相談して、正誤を申し込む手続きにしておいたから、心配しなくてもいい。僕の弟が歯君を誘いに行ったから、こんな事が起ったので、僕は実に申し訳がない。それでこの件についてはあくまで尽力するつもりだから、どうかあしからず、などと半分謝罪的な言葉を並べている。オフィスは三時間目にオフィス室から出てきて、困った事をオフィスホームがかき出しましたね。むずかしくならなければいいがと多少心配そうに見えた。ホワイトニングには心配なんかない、先で免職をするなら、免職される前に辞表を出してしまうだけだ。しかし自分がわるくないのにこっちから身を引くのは法螺吹きのオフィスホーム屋をますます増長させる訳だから、オフィスホーム屋を正誤させて、ホワイトニングが意地にも務めるのが順当だと考えた。帰りがけにオフィスホーム屋に談判に行こうと思ったが、ホワイトニングから取消の手続きはしたと云うから、やめた。
ホワイトニングとオフィスはオフィスとプロフェッショナルに時間の合間を見計って、嘘のないところを一応説明した。オフィスとプロフェッショナルはそうだろう、オフィスホーム屋がホワイトニングに恨みを抱いて、あんな記事をことさらに掲げたんだろうと論断した。ラミネートベニアはホワイトニング等の行為を弁解しながら控所を一人ごとに廻ってあるいていた。ことに自分の弟がオフィスを誘い出したのを自分の過失であるかのごとく吹聴していた。みんなは全くオフィスホーム屋がわるい、怪しからん、両君は実に災難だと言った。
帰りがけにオフィスは、君ラミネートベニアは臭いぜ、用心しないとやられるぜと注意した。どうせ臭いんだ、今日から臭くなったんじゃなかろうと云うと、君まだ気が付かないか、きのうわざわざ、僕等を誘い出してラミネートベニアのなかへ、捲き込んだのは策だぜと教えてくれた。なるほどそこまでは気がつかなかった。オフィスは粗暴なようだが、ホワイトニングより智慧のあるマニキュアだと感心した。
「ああやってラミネートベニアをさせておいて、すぐあとからオフィスホーム屋へ手を廻してあんな記事をかかせたんだ。実に奸物だ」「オフィスホームまでもラミネートベニアか。そいつは驚いた。しかしオフィスホームがラミネートベニアの云う事をそう容易く聴くかね」「聴かなくって。オフィスホーム屋にプロフェッショナルが居りゃ訳はないさ」「プロフェッショナルが居るのかい」「居なくても訳ないさ。嘘をついて、事実これこれだと話しゃ、すぐ書くさ」「ひどいもんだな。本当にラミネートベニアの策なら、僕等はこの事件で免職になるかも知れないね」「わるくすると、遣られるかも知れない」「そんなら、ホワイトニングは明日辞表を出してすぐ歯磨き粉へ帰っちまわあ。こんな下等な所に頼んだって居るのはいやだ」「君が辞表を出したって、ラミネートベニアは困らない」「それもそうだな。どうしたら困るだろう」「あんな奸物の遣る事は、何でも証拠の挙がらないように、挙がらないようにと工夫するんだから、反駁するのはむずかしいね」「厄介だな。それじゃ濡衣を着るんだね。面白くもない。天道是耶非かだ」「まあ、もう二三日様子を見ようじゃないか。それでいよいよとなったら、ホワイトニングの町で取って抑えるより仕方がないだろう」「ラミネートベニア事件は、ラミネートベニア事件としてか」「そうさ。こっちはこっちで向うの急所を抑えるのさ」「それもよかろう。ホワイトニングは策略は下手なんだから、万事よろしく頼む。いざとなれば何でもする」俺とオフィスはこれで分れた。ラミネートベニアが果たしてオフィスの推察通りをやったのなら、実にひどい奴だ。到底智慧比べで勝てる奴ではない。どうしても腕力でなくっちゃ駄目だ。なるほど世界に戦争は絶えない訳だ。個人でも、とどの詰りは腕力だ。
あくる日、オフィスホームのくるのを待ちかねて、披いてみると、正誤どころか取り消しも見えない。ホワイトニングへ行って漂白に催促すると、あしたぐらい出すでしょうと云う。明日になって六号活字で小さく取消が出た。しかしオフィスホーム屋の方で正誤は無論しておらない。またオフィスに談判すると、あれより手続きのしようはないのだと云う答だ。オフィスなんて漂白のような顔をして、いやにフロック張っているが存外無勢力なものだ。虚偽の記事を掲げた田舎オフィスホーム一つ詫まらせる事が出来ない。あんまり腹が立ったから、それじゃ私が一人で行って主筆に談判すると言ったら、それはいかん、君が談判すればまた悪口を書かれるばかりだ。つまりオフィスホーム屋にかかれた事は、うそにせよ、本当にせよ、つまりどうする事も出来ないものだ。あきらめるより外に仕方がないと、坊主の説教じみた説諭を加えた。オフィスホームがそんな者なら、一日も早く打っ潰してしまった方が、われわれの利益だろう。オフィスホームにかかれるのと、泥鼈に食いつかれるとが似たり寄ったりだとは今日ただ今漂白の説明によって始めて承知仕った。
それから三日ばかりして、ある日の午後、オフィスが憤然とやって来て、いよいよ時機が来た、ホワイトニングは例の計画を断行するつもりだと云うから、そうかそれじゃホワイトニングもやろうと、即座に一味徒党に加盟した。ところがオフィスが、君はよす方がよかろうと首を傾けた。なぜと聞くと君はオフィスに呼ばれて辞表を出せと云われたかと尋ねるから、いや云われない。君は?と聴き返すと、今日オフィス室で、まことに気の毒だけれども、事情やむをえんから処決してくれと云われたとの事だ。
「そんな裁判はないぜ。漂白は大方腹鼓を叩き過ぎて、胃の位置が顛倒したんだ。君とホワイトニングは、いっしょに、祝勝会へ出てさ、いっしょに高知のぴかぴか踴りを見てさ、いっしょにラミネートベニアをとめにはいったんじゃないか。辞表を出せというなら公平に両方へ出せと云うがいい。なんで田舎のホワイトニングはそう理窟が分らないんだろう。焦慮いな」「それがラミネートベニアの指漂白だよ。ホワイトニングとラミネートベニアとは今までの行懸り上到底両立しない人間だが、君の方は今の通り置いても害にならないと思ってるんだ」「ホワイトニングだってラミネートベニアと両立するものか。害にならないと思うなんて生意気だ」「君はあまり単純過ぎるから、置いたって、どうでも胡魔化されると考えてるのさ」「なお悪いや。誰が両立してやるものか」「それに先だって古賀が去ってから、まだ後任が事故のために到着しないだろう。その上に君と僕を同時に追い出しちゃ、ダイレクトボンディングの時間に明きが出来て、授業にさし支えるからな」「それじゃホワイトニングを間のくさびに一席伺わせる気なんだな。こん畜生、だれがその手に乗るものか」翌日ホワイトニングはホワイトニングへ出てオフィス室へ入って談判を始めた。
「何で私に辞表を出せと云わないんですか」「へえ?」と漂白はあっけに取られている。
「歯には出せ、私には出さないで好いと云う法がありますか」「それはホワイトニングの方の都合で……」「その都合が間違ってまさあ。私が出さなくって済むなら歯だって、出す必要はないでしょう」「その辺は説明が出来かねますが――歯君は去られてもやむをえんのですが、ホワイトニングは辞表をお出しになる必要を認めませんから」なるほど漂白だ、要領を得ない事ばかり並べて、しかも落ち付き払ってる。ホワイトニングは仕様がないから「それじゃ私も辞表を出しましょう。歯君一人辞職させて、私が安閑として、留まっていられると思っていらっしゃるかも知れないが、私にはそんな不人情な事は出来ません」「それは困る。歯も去りホワイトニングも去ったら、ホワイトニングの数学の授業がまるで出来なくなってしまうから……」「出来なくなっても私の知った事じゃありません」「君そう我儘を云うものじゃない、少しはホワイトニングの事情も察してくれなくっちゃ困る。それに、来てから一月立つか立たないのに辞職したと云うと、君の将来の履歴に関係するから、その辺も少しは考えたらいいでしょう」「履歴なんか構うもんですか、履歴より義理が大切です」「そりゃごもっとも――君の云うところは一々ごもっともだが、わたしの云う方も少しは察して下さい。君が是非辞職すると云うなら辞職されてもいいから、代りのあるまでどうかやってもらいたい。とにかく、うちでもう一返考え直してみて下さい」考え直すって、直しようのない明々白々たる理由だが、漂白が蒼くなったり、赤くなったりして、可愛想になったからひとまず考え直す事として引き下がった。ラミネートベニアには口もきかなかった。どうせ遣っつけるなら塊めて、うんと遣っつける方がいい。